前回のブログでは、「オイシックス流 生成AI活用のはじめ方」として、生成AIボランティアプロジェクトの概要をご紹介しました。今回は、その裏側を少しご紹介したいと思います。
まずはじめに、ボランティア活動枠組みを決めるにあたり、その活動のゴールを「最先端のAI技術を活用して、様々な業務プロセスを改善し、全社の生産性を向上させる可能性を模索する」と設定しました。このゴールを実現するためには、生成AIを「より良く」「安全に」使うことが重要です。そこで、この2つをテーマに、ボランティアプロジェクトを設計することとしました。
より良く使うための準備
生成AIを「より良く使う」ためには、その仕組みや特徴を理解し、適切な活用方法を学ぶ必要があります。一般的に、生成AIの学習には、以下のような方法論が確立されつつあります。
- 基礎知識の習得: 生成AIの定義、仕組み、メリット・デメリット、活用事例などを学びます。
- ハンズオン: 様々な生成AIツールを実際に触り、それぞれの機能や操作方法を習得します。
- 応用ワークショップ: 具体的な業務課題を想定し、生成AIを活用した解決策を検討します。
これらの学習を推進するには、計画に時間と費用がかかります。十分な予算がある企業プロジェクトであれば、学習のための選りすぐりツールやノウハウを購入することができますが、我々のボランティアプロジェクトは予算が限られています。さらに、その限られた予算は可能な限り環境構築やモデルの組み込み等に充当したため、学習予算はほとんど残っていません。
そこで、私たちは無料で獲得できる資源を最大限活用することにしました。
学習リソースの紹介
2022年以降、生成AIは特に産業領域で急速に発展し、インターネット上には多くの情報が溢れています。後発の初学者にとって、情報の渦の中から信頼に足りる情報源を探し当てるのは困難な状況になりつつあり、特定にも時間がかかる状況でした。そこで、私たちは下記のような観点で参加者の学びの助けになりそうな学習リソースを選定しました。
- 技術領域でない人間でも理解できる
- 基礎と実践のバランスが取れている
- 政府機関や専門家が発信する情報
- 無料で閲覧、またはお小遣いの範囲で購入できる
- 動画が好ましい
以下に、参考にさせていただいたサイトや書籍を紹介します。(2023年末の情報です。所属組織名やサイトが更新されている場合がありますのでご了承ください。)
(1)生成AIの”基本のキ”を学びたい向け
<生成AIの基礎>
生成AIの基礎と教育における活用可能性
文部科学省/mextchannel / 東京大学 吉田准教授
生成AIの基礎を3つのトピック(生成AIとは、生成AIの用途、生成AIの注意点)に分けて丁寧に解説。実際の事例も交えながら、生成AIの定義、長所・短所、利用時の注意点などを分かりやすく説明されています。
<プロンプトの基礎>
教育活動・教務で活用できるプロンプト紹介
文部科学省/mextchannel / スクールエージェント株式会社 代表取締役 田中先生
生成AIのプロンプトの基礎を学び、実践的に取り組むためのプロンプトエンジニアリングについて講義されています。
<実践>
面倒なことはChatGPTにやらせよう
カレーちゃん、からあげ
「ChatGPT Plus」のビジネス活用に特化した書籍。平易な言葉で書かれていながら、内容は硬派で、プロンプトエンジニアリングに役立つ情報が満載です。Notionにサポートサイトもあります。
(2)プロンプトエンジニアリングを深堀りたい方向け
<ベストプラクティス>
Anthropic Claude - Prompt Design大全
Claudeに”思った通りの回答をさせる”ためのテクニックが紹介されています。
プロンプトライブラリ
Prompt Library
Anthropicによるプロンプトライブラリ。
(3)ビジネス視点で生成AIの大局観を掴みたい方向け
人工知能・深層学習を学ぶためのロードマップ
東京大学 松尾・岩澤研究室
情報系以外の大学生向けと社会人向けを想定し,人工知能や深層学習について一通りの内容を学ぶことを念頭に作成されたロードマップです。サイト内にビジネスパーソン向けに、「東大生も学ぶ「AI経営」の教科書」「世界のトップ企業 50 は AI をどのように活用しているか?」などの書籍が紹介されています。
(4)テクノロジー視点で生成AIの大局観を掴みたい方向け
生成AIの技術動向と影響
東京大学の松尾教授が厚生労働省で概要説明された際の資料。技術開発と技術利用のバランスをうまくとられている点が特徴で、大変参考になります。
(5)テクノロジーの基礎をより深く理解したい方向け
大規模言語モデルの驚異と脅威
東京工業大学(現東京科学大学) 岡崎教授
大規模言語モデルの驚異を実現する仕組みとその仕組みがもたらす脅威についてコンパクトにまとめた簡潔明瞭な報告ビデオです。
安全に使うための準備
ボランティアを支えるルールとガイド
ボランティア活動は、本来、自発的な行動を意味しますが、会社のアセットを利用する以上、リスク管理は欠かせません。そこで、私たちは、社内規定や規則に準拠したルールと、生成AI活動を安全かつ効果的に進めるためのガイドを策定しました。
ルールには、順守すべき義務や禁止事項を明記し、ガイドには、生成AIツールを適切に活用するための指針や指標を盛り込みました。これにより、ルールは厳格に守るべきもの、ガイドは判断を助けるものとして明確に区別し、安全な利用のための枠組みを構築しました。
なお、策定にあたり、日本ディープラーニング協会提供のガイドライン を参考にさせていただきました。社内での議論や法務部との調整において、ガイドラインがたたき台となり、論点整理や説明をスムーズに行うことができました。法的、倫理的、社会的な対策に馴染みのないメンバーにとっても、理解しやすい内容であったため、大変助けになりました。
まとめ
今回は、生成AIボランティアの裏側として「より良く使う」と「安全に使う」という2つのテーマに焦点を当て、私たちが実践した内容をご紹介しました。
限られた予算やリソースの中で工夫を凝らしながらプロジェクトを進めることは、大変ではありますが、大きな達成感を得られます。
オイシックス社員には、「降りかかる問題は選べないが、問題に向かう態度は選べる」というマインドが根付いています。 このマインドこそ、私たちが困難な状況でも前向きに、そして楽しみながらプロジェクトを進められる秘訣なのかもしれません。